2011年7月23日土曜日

LCRフォノイコライザ採用プリについて:ラインアンプ実装 - 9

下の写真はラインアンプブロックの外観です。ご覧の様にシンプルな構成ですが、高い性能を得るために様々な配慮がなされています。

以前にも書いたかと思いますが、どんなシステムにおいても、常に相反する要素が含まれたおり、どのように相反する特性をバランスよくコントロールするかというのが設計の際の腕の見せ所となります。

真空管アンプの場合は、埃の影響を最小にし、信頼性を高めるためには密閉構造のケースが必要になりますが、真空管の放熱に対応するためには密閉構造をとることができません。

このフラットアンプでは以下にご紹介する方法で相反する要素を両立させています。



以下の写真はこのラインアンプに採用している真空管のシールドケースです。
シールドケースの材質 はアルミで熱伝導が良く出来ています。



下の写真に見られるとおりシールドケースの内側には真空管の管面に直接金属のバネ材が接して管面温度をケース側に伝え放熱すると共に遮蔽シールド、固定、防振の効果を果たしています。(バネ材は非磁性材です)



次の写真はシールドのシールド嵌合部です。一般に使用されているシールドケースは真空管の管面とは密着せず空気の層が出来管面を直接冷やすことは出来ません。又、シールドケース自体もベースとの嵌合は熱を 伝える構造にはなっていません。



次の写真にみられるとおり、ラインアンプブロックは前回ご紹介のシンプルで高性能な回路をアルミ・チャンネルを使用し整然と実装されています。 シールドケースに伝わった熱はシールドのベースを通って3mm厚のアルミ・チャン ネルに伝わります。チャンネルの大きさは50mm×25mm×150mm t=3です。



このチャンネルはラインアンプ・ブロックの170mm×200mm t=2のシャーシー板に取り付けられ、本体ケースに付けられています。本体外装ケースは1.5mm厚のア ルミ・アルマイト仕上げです。これらの部材を通して外部に熱を放出しています。

以上によりこのプリアンプに於いては、密閉構造と放熱を両立させています。
実際に使用してみても12時間の連続稼働後もケースの温度上昇ほとんど有りません。

余談になりますが、今の政府の財政政策には目を覆うものがあると強く感じています。税収の増加は、税率を高くすれば、経済成長が低くなり、税率を低くすれば税収が減る。増税はしたくないが、支出は増やしたい等、相反する要素を制御する制度設計と実行力が政府にも国民の一人一人にも強く求められているとの認識を持って行動したいものです。

2011年7月14日木曜日

LCRフォノイコライザ採用プリについて:ラインアンプの特性 - 8

長年にわたり、色々なアンプを聴いてきましたが、私個人の印象として、特性の良い負帰還(NFB)を使用しないアンプは音楽が生き生きと聴こえます - しかしながら、特性が良く安定したNFBを使用しないアンプを設計・制作するのは大変難しいことです。 一方NFBを多用したアンプは特性が良いのにもかかわらず、再生音の生々しさ、迫力に欠け、なんとなくつまらない音になる傾向が有る様です。

今回紹介させていただいているプリのラインアンプは二段直結の真空管(6DJ8)カソードフォロワ―構成のシンプルな回路でNFBは使用しておりませんが以下の図で示すとおり周波数特性は20Hz~50KHz迄フラットと大変優秀です。


100Hz,1KHz,10KHにおける歪率もご覧の通り小数点以下3桁と極めて良好です。また、出力電圧の高い範囲まで良好な歪率をしめしています。





















シンプルな真空管回路でこのような素晴らしい特性を得るために以下の配慮等がなされています。

1. 1. ユニークな回路設計
ラインアンプの設計にあたっては、三極管を定電流負荷で動作させると定抵抗負荷で動作させた場合に比較し、グリッド電圧の変化に対するプレート電圧の変化の直線性が良くなることに着目し、ブートストラップ回路を活用により、初段管の電圧増幅動作を定電流に近い動作となるように工夫しています。
このラインアンプに採用された回路では電圧増幅段の負荷抵抗の両端にかかる電圧がほぼ同じとなるため、負荷抵抗にはほとんど信号が流れず、負荷抵抗が大幅に増大したのと同等となり、定電流に近い動作が図れることとなります。これにより測定結果でご覧いただけるとおりの低歪率と、最大出力電圧をNFB無しで達成しています。

ちなみに電圧増幅段のプレート電流の定電流化は半導体を使用した回路でも作成可能ですが複雑なものとなり、回路構成の上でも問題があります。

上田氏の全ての素子(真空管、トランジスタ、FET等)の特徴を理解したうえでのフラットアンプでの真空管の採用は、LCRイコライザにおけるオペアンプの採用とともに、最適な素子を使用し、シンプルで最適な回路を構成するものであり、アマチアには説明されてなるほどとは思えるものの、我々が発想できる範囲をはるかに超えたものと感心しています。

余談ですが、真空管でLCRイコライザを作るとインピーダンスの整合等の面から複雑で大げさなものとなります。

2. 2. 部品の選定
NFB無しの回路においては使用する素子の特性が全体の特性に大きく影響するため、特に真空管の増幅度やノイズ特性を測定、選別して採用しています。
ライントランスは特性も、音質も大きく左右しますのでデータと試聴の両面での選択が必要となります。

3. 3. 電源のACラインの分離
ハム及び外部ノイズの低減に十分効果があったと思われます。

4. 4. 実装
優秀な回路もアースの引きまわし、ノイズ対策等を考慮した実装がされなくては良い特性を得られません。次回は配線の様子等を紹介させていただく予定です。

このプリの回路については、MJ 無線と実験 2011年 6月号に詳細が紹介されておりますので、ご覧いただければ幸いです。

2011年7月4日月曜日

LCRフォノイコライザ採用プリについて:入力セレクター - 7

以下の写真は入力セレクターです。ご覧の通りフォノ入力1, ライン入力4を備えています。これからすると入力セレクターには入力用シールド線が5組、出力用シールド線が1組結線されていると思われます。



さて、下の写真は入力セレクタ周りの結線です。ご覧の通りごちゃごちゃしているはずのシールド線が見えません。 



その理由は、入力の選択に、以下の写真のリードリレーを使用しているからです。各回路毎に1個のリレーを使用し、セレクターは選択された1回路のリレーをオンにし、他の入力回路用のリレーをオフにするコントローラとして使用されています。リードリレーはモールド型で取り扱いが容易な形状のものを採用しています。リレー接点部はガラス管内部に封入されていて、中は不活性ガスで満たされており、接点の劣化が極めて起こりにくくなっています。



以下の写真は入力セレクタ用のリレー基板です。


リレー基板は以下の写真のとおり入力端子の近傍に設置されています。
この方式の採用により;
1. 入力セレクターの信頼性(耐久性)の向上
2. シールド線の引きまわしによる雑音誘導の最小化
3. 配線作業の簡素化
が実現されています。

また、出力はRCAピンジャックを基板内側に出しており、他のブロックと接続できるようにしているため、ブロック毎のトラブル・シューティング等が容易に行えます。

この方式を上田氏は以前から採用しており、当店で使用中のCR型イコライザー付プリのセレクターは20年以上使用しておりますが、未だにトラブルが一回も発生しておりません。
セレクターはプリアンプでは最もトラブルの発生しやすい部分ですので、この方式の採用は信頼性、耐久性が重要になる業務用に使用する機器には最適な方式と考えれれます。



このプリと同じ回路のプリ(使用部品等異なる処があります)が上田氏によりMJ無線と実験 2011年6月号 (5月10日発売)に発表されておりますので、ご参考いただければ幸いです。

2011年6月23日木曜日

LCRフォノイコライザ採用プリについて:イコライザ・ブロック実装 - 6






上の写真はイコライザ・ブロックを入力端子、アース端子の側から撮影したものです。真ん中は組み立て後の写真、一番下はアンプを組んだ後の入力端子、アース端子の写真です。

お分かりのとおり、独立したイコライザ・ブロックをアンプのケースに組み込んでいます。
この方式ですと、入力部の配線、アースの引きまわしもブロックの中で最適化できるため、ブロック単体で得られた(調整された)特性を損なうことなく実装することが可能となり、メンテナンスの際もブロック単体を取り出しての作業が可能となります。

我々アマチアがアンプを製作した場合は、大抵の場合、全ての回路がアンプ内でつながってしまい、測定値、聴いた感じに不具合が生じても、どこから手をつけて良いか分からなくなり、パニックになってしまい、いったん組み立てたアンプを分解することが困難になってしまうことが多いので、この実装方式は大変参考になるものと思います。

このプリと同じ回路のプリ(使用部品等異なる処があります)が上田氏によりMJ無線と実験 2011年6月号 (5月10日発売)に発表されておりますので、ご参考いただければ幸いです。

LCRフォノイコライザ採用プリについて:イコライザ部測定データ - 5



イコライザ・ブロックの測定結果です。 ご覧のとうりRIAAカーブに対する偏差は偏差測定不可能といった高い精度に仕上がっています。

歪率特性は1KHz/3mV入力で0.0055%, 1KHzのおけるアンプ・ゲインは35.5dB,残留ノイズは20μVAと大変優れた結果です。最大入力電圧は0.1%の歪率にて、1KHzにて160mV,10KHzにて300mVと余裕を持っています。

測定結果がアンプの良し悪しの全てを表すものでは無いと思いますが、測定結果をしっかり押さえておくことが家で言えば土台をしっかりしておくようなもので、特性の確認が良いアンプを完成させるための基礎と考えられます。

しかしながら、測定結果が同等でも同等の音質が必ずしも得られないところがオーディオの不思議で面白いところです。しかもアンプの特性に比べると歪率、周波数特性等がデータ上極めて悪いスピーカで再生してアンプの違いが分かるのなると、なぜなのか考え込んでしまいます。

硬い音、しなやかな音、腰のある音等の表現はオーディオ仲間の間ではある程度の共通認識を持たれている表現かと思いますが、測定データ上ではうまくあらわれてはこないようです。まして音楽的な音がするといったような、いわゆるあいまいな表現は聴く人の間で認識の差も大きいと思われるので、なおさら分からなくなります。

ウイスキーの味がアルコール度で定義できるものではありませんが、アルコール度の確保は必要条件といえるでしょう。 一流のウイスキー・ブレンダーの間では味、香り等についての認識や表現方法が良し悪しの基準も含め共有されているとのことです。

残念ながらオーディオの世界では一流ブレンダーの世界の様にはいかず、良い音かどうかは最後は好みの問題といったところに落ち着くのが現状かとは思いますが、個人的には好みの問題とは別にウイスキー同様訓練を積めばオーディオ・システム(部屋他の全てを含む)の良しあしが分かるようにならないものかと思っています。

2011年6月10日金曜日

LCRフォノイコライザ採用プリについて:イコライザブロック内部 - 4





イコライザ・ブロックの内部です。

一番上の写真がイコライザ・ブロックの全体です。このブロックは堅牢なダイキャストのケース内に組み込まれています。内部の仕切りの左側がイコライザ回路、右側は電源となっています。

左側に入力端子、アース端子を配置し、右奥上部が出力端子となります。入力端子、アース端子はそのままバックパネルから顔を出し入力端子となります。奥にモジュールから突きでる感じで上田氏手製のLが配置されています。

真ん中がイコライザ部です。黒い小さな二つある四角はナショナルセミコンダクターのオペアンプIC, LME49860です。 その隣の黒い部品はリレーで、電源スイッチを入れてからイコライザ回路が安定するまでのノイズを回避するためのミューティング回路を構成しています。ミューティング時間は約6秒に設定してあります。

LCR型イコライザはNF型、CR型に比べて複雑な回路になるところですが、シンプルな構成、整然とした部品の配置、巧みなワイヤリングはご覧のとおりです。回路の設計が優秀でも実装技術・センスが伴わないとS/N等の良好な特性を得ることはできません。この部分もまさにノウ・ハウの塊ということができます。

下の写真は電源部です。フラットアンプに使用している真空管6DJ8のヒーター用の12V直流点火用電源を利用しており相互ノイズ等の干渉をさけるため、3端子レギュレータで一度6Vに落としてから、DC/DCコンバーター モジュールでオペアンプ用電源 ±15Vを得ています。 
これによりイコライザ・ブロックへの外部からのDC電源の影響を避けるとともに、イコライザ・ブロック内で電源を持つため、イコライザ・ブロックとしての単独動作が可能となるため、調整、特性の確認等をブロック単体で行うことができるようになります。

このプリと同じ回路のプリ(使用部品等異なる処があります)が上田氏によりMJ無線と実験 2011年6月号 (5月10日発売)に発表されておりますので、ご参考いただければ幸いです。

2011年6月6日月曜日

LCRフォノイコライザ採用プリについて:イコライザについて - 3





LP レコードの溝を刻む時、入力音源に比べては低域では小さな信号に、高域では大きな信号に変換してから溝を刻んであります- 上から二枚の図。
この理由は;
1.そのまま記録すると低域の溝幅が大きくなりレコード盤に記録できる時間が短くなってしまう。
2.高域では溝幅が小さくなりSN比が取れなくなる等の問題が発生する。
3.再生能力の高いマグネチック型のピックアップ(MM,MC型等) では再生周波数が高くなるほど針の動きによって得られる磁石とコイルの相対速度が速くなるため出力電力が高くなる。この特性を生かし低域から高域迄の再生時の針の振動振幅の差を少なくし、トレーシング能力を高める。
等によります。

このためLPレコードをマグネチック型カートリッジで再生する際はレコードの溝を刻む際とは逆に低域の信号成分を大きく、高域の信号成分を小さく再生するためのフォノ・イコライザ回路が必要になります- 上から三枚目の図。

この録音、再生カーブはLPレコードの初期には色々なタイプが存在していましたが、 RIAAカーブと呼ばれるRecording Industry Association of Americaにより提案された規格が標準となっています。
アナログ回路によるフォノ・イコライザ回路にはNF型、CR型、LCR型,その他(各方式の組み合わせ等)が有りますが、今回紹介させていただくアンプではLCR型回路を採用しています。

LCR型イコライザは一番下の図のとおり、前段増幅器と後段増幅器、二つの増幅器の間のL,C,Rで構成されたRIAAイコライザ素子で構成されます。 

L,C,Rを使ったイコライザ素子では周波数に関係なく、前段増幅器に対して定インピーダンス負荷とすることができるため前段増幅器にとっては大変良い条件となります。また後段のアンプに対しても低い値の定インピーダンス入力はノイズ面からも有利になります。

ちなみにNF型では高域負荷が重くなり、CR型では前段増幅器の出力インピーダンスや後段増幅器の入力抵抗がイコライザ特性に影響します。

こう書いてきますと、それなら何故LCR型イコライザが広く使われないのかと疑問が出てきますが、部品コスト(商品化には大きな問題です)を別としても;

A.低いノイズレベルの前段増幅器と後段増幅器が必要

B.定インピーダンスRIAA素子は、インピーダンスを高くしょうとすると、Lの値が大きくなり形状が大きくなったり、自己共振周波数が低くなったりして実用にならず、又、小さくするとインピーダンスが小さくなるため、Cの値が大きくなり、前段アンプの負荷が低くなり駆動が困難になる。 

C.インダクタンス素子を使用するため電磁シールドが必要

D.L素子の入手が困難

等があるからです。

今回のアンプでは上記の課題に対して、以下の対応をしています。

a.低いノイズレベルの前段増幅器と後段増幅器としてナショナルセミコンダクタのオペアンプIC、LME49860を採用

b.このオペアンプは直接ローインピーダンス600オーム負荷を駆動できます。

c.一番上の写真がアンプに実装されたイコライザ・ブロックです。ご覧いただけるようにアルミケースの中にイコライザー部全ての機能を組み込み、シールドに万全を期しています。

d.LCRイコライザーでは、L部分を流れる信号出力を主に使用するためLが大変重要となります。緑色の円筒がL素子です。このL素子は上田氏の手作りによるものです。プリのケースの高さが88ミリですので、L素子のパッケージの大きさがおわかりいただけるかと思います(L素子が二つ入っています)。L素子の設計、制作は温度特性、電磁シールド、機械的振動の排除その他多くの課題を考慮にいれなければならず、まさにノウ・ハウの塊です。 

余談ながら最近は技術も分業となり、全体設計、ブロック設計、部品の設計、制作、組み立て、配線、機械加工等全てを理解することが難しくなってきましした。この点からもこのプリでのLPの再生を聴きながら、上田氏の力量に関心するところ多です。

このプリと同じ回路のプリ(使用部品等異なる処があります)が上田氏によりMJ無線と実験 2011年6月号 (5月10日発売)に発表されておりますので、ご参考いただければ幸いです。