2011年6月23日木曜日

LCRフォノイコライザ採用プリについて:イコライザ・ブロック実装 - 6






上の写真はイコライザ・ブロックを入力端子、アース端子の側から撮影したものです。真ん中は組み立て後の写真、一番下はアンプを組んだ後の入力端子、アース端子の写真です。

お分かりのとおり、独立したイコライザ・ブロックをアンプのケースに組み込んでいます。
この方式ですと、入力部の配線、アースの引きまわしもブロックの中で最適化できるため、ブロック単体で得られた(調整された)特性を損なうことなく実装することが可能となり、メンテナンスの際もブロック単体を取り出しての作業が可能となります。

我々アマチアがアンプを製作した場合は、大抵の場合、全ての回路がアンプ内でつながってしまい、測定値、聴いた感じに不具合が生じても、どこから手をつけて良いか分からなくなり、パニックになってしまい、いったん組み立てたアンプを分解することが困難になってしまうことが多いので、この実装方式は大変参考になるものと思います。

このプリと同じ回路のプリ(使用部品等異なる処があります)が上田氏によりMJ無線と実験 2011年6月号 (5月10日発売)に発表されておりますので、ご参考いただければ幸いです。

LCRフォノイコライザ採用プリについて:イコライザ部測定データ - 5



イコライザ・ブロックの測定結果です。 ご覧のとうりRIAAカーブに対する偏差は偏差測定不可能といった高い精度に仕上がっています。

歪率特性は1KHz/3mV入力で0.0055%, 1KHzのおけるアンプ・ゲインは35.5dB,残留ノイズは20μVAと大変優れた結果です。最大入力電圧は0.1%の歪率にて、1KHzにて160mV,10KHzにて300mVと余裕を持っています。

測定結果がアンプの良し悪しの全てを表すものでは無いと思いますが、測定結果をしっかり押さえておくことが家で言えば土台をしっかりしておくようなもので、特性の確認が良いアンプを完成させるための基礎と考えられます。

しかしながら、測定結果が同等でも同等の音質が必ずしも得られないところがオーディオの不思議で面白いところです。しかもアンプの特性に比べると歪率、周波数特性等がデータ上極めて悪いスピーカで再生してアンプの違いが分かるのなると、なぜなのか考え込んでしまいます。

硬い音、しなやかな音、腰のある音等の表現はオーディオ仲間の間ではある程度の共通認識を持たれている表現かと思いますが、測定データ上ではうまくあらわれてはこないようです。まして音楽的な音がするといったような、いわゆるあいまいな表現は聴く人の間で認識の差も大きいと思われるので、なおさら分からなくなります。

ウイスキーの味がアルコール度で定義できるものではありませんが、アルコール度の確保は必要条件といえるでしょう。 一流のウイスキー・ブレンダーの間では味、香り等についての認識や表現方法が良し悪しの基準も含め共有されているとのことです。

残念ながらオーディオの世界では一流ブレンダーの世界の様にはいかず、良い音かどうかは最後は好みの問題といったところに落ち着くのが現状かとは思いますが、個人的には好みの問題とは別にウイスキー同様訓練を積めばオーディオ・システム(部屋他の全てを含む)の良しあしが分かるようにならないものかと思っています。

2011年6月10日金曜日

LCRフォノイコライザ採用プリについて:イコライザブロック内部 - 4





イコライザ・ブロックの内部です。

一番上の写真がイコライザ・ブロックの全体です。このブロックは堅牢なダイキャストのケース内に組み込まれています。内部の仕切りの左側がイコライザ回路、右側は電源となっています。

左側に入力端子、アース端子を配置し、右奥上部が出力端子となります。入力端子、アース端子はそのままバックパネルから顔を出し入力端子となります。奥にモジュールから突きでる感じで上田氏手製のLが配置されています。

真ん中がイコライザ部です。黒い小さな二つある四角はナショナルセミコンダクターのオペアンプIC, LME49860です。 その隣の黒い部品はリレーで、電源スイッチを入れてからイコライザ回路が安定するまでのノイズを回避するためのミューティング回路を構成しています。ミューティング時間は約6秒に設定してあります。

LCR型イコライザはNF型、CR型に比べて複雑な回路になるところですが、シンプルな構成、整然とした部品の配置、巧みなワイヤリングはご覧のとおりです。回路の設計が優秀でも実装技術・センスが伴わないとS/N等の良好な特性を得ることはできません。この部分もまさにノウ・ハウの塊ということができます。

下の写真は電源部です。フラットアンプに使用している真空管6DJ8のヒーター用の12V直流点火用電源を利用しており相互ノイズ等の干渉をさけるため、3端子レギュレータで一度6Vに落としてから、DC/DCコンバーター モジュールでオペアンプ用電源 ±15Vを得ています。 
これによりイコライザ・ブロックへの外部からのDC電源の影響を避けるとともに、イコライザ・ブロック内で電源を持つため、イコライザ・ブロックとしての単独動作が可能となるため、調整、特性の確認等をブロック単体で行うことができるようになります。

このプリと同じ回路のプリ(使用部品等異なる処があります)が上田氏によりMJ無線と実験 2011年6月号 (5月10日発売)に発表されておりますので、ご参考いただければ幸いです。

2011年6月6日月曜日

LCRフォノイコライザ採用プリについて:イコライザについて - 3





LP レコードの溝を刻む時、入力音源に比べては低域では小さな信号に、高域では大きな信号に変換してから溝を刻んであります- 上から二枚の図。
この理由は;
1.そのまま記録すると低域の溝幅が大きくなりレコード盤に記録できる時間が短くなってしまう。
2.高域では溝幅が小さくなりSN比が取れなくなる等の問題が発生する。
3.再生能力の高いマグネチック型のピックアップ(MM,MC型等) では再生周波数が高くなるほど針の動きによって得られる磁石とコイルの相対速度が速くなるため出力電力が高くなる。この特性を生かし低域から高域迄の再生時の針の振動振幅の差を少なくし、トレーシング能力を高める。
等によります。

このためLPレコードをマグネチック型カートリッジで再生する際はレコードの溝を刻む際とは逆に低域の信号成分を大きく、高域の信号成分を小さく再生するためのフォノ・イコライザ回路が必要になります- 上から三枚目の図。

この録音、再生カーブはLPレコードの初期には色々なタイプが存在していましたが、 RIAAカーブと呼ばれるRecording Industry Association of Americaにより提案された規格が標準となっています。
アナログ回路によるフォノ・イコライザ回路にはNF型、CR型、LCR型,その他(各方式の組み合わせ等)が有りますが、今回紹介させていただくアンプではLCR型回路を採用しています。

LCR型イコライザは一番下の図のとおり、前段増幅器と後段増幅器、二つの増幅器の間のL,C,Rで構成されたRIAAイコライザ素子で構成されます。 

L,C,Rを使ったイコライザ素子では周波数に関係なく、前段増幅器に対して定インピーダンス負荷とすることができるため前段増幅器にとっては大変良い条件となります。また後段のアンプに対しても低い値の定インピーダンス入力はノイズ面からも有利になります。

ちなみにNF型では高域負荷が重くなり、CR型では前段増幅器の出力インピーダンスや後段増幅器の入力抵抗がイコライザ特性に影響します。

こう書いてきますと、それなら何故LCR型イコライザが広く使われないのかと疑問が出てきますが、部品コスト(商品化には大きな問題です)を別としても;

A.低いノイズレベルの前段増幅器と後段増幅器が必要

B.定インピーダンスRIAA素子は、インピーダンスを高くしょうとすると、Lの値が大きくなり形状が大きくなったり、自己共振周波数が低くなったりして実用にならず、又、小さくするとインピーダンスが小さくなるため、Cの値が大きくなり、前段アンプの負荷が低くなり駆動が困難になる。 

C.インダクタンス素子を使用するため電磁シールドが必要

D.L素子の入手が困難

等があるからです。

今回のアンプでは上記の課題に対して、以下の対応をしています。

a.低いノイズレベルの前段増幅器と後段増幅器としてナショナルセミコンダクタのオペアンプIC、LME49860を採用

b.このオペアンプは直接ローインピーダンス600オーム負荷を駆動できます。

c.一番上の写真がアンプに実装されたイコライザ・ブロックです。ご覧いただけるようにアルミケースの中にイコライザー部全ての機能を組み込み、シールドに万全を期しています。

d.LCRイコライザーでは、L部分を流れる信号出力を主に使用するためLが大変重要となります。緑色の円筒がL素子です。このL素子は上田氏の手作りによるものです。プリのケースの高さが88ミリですので、L素子のパッケージの大きさがおわかりいただけるかと思います(L素子が二つ入っています)。L素子の設計、制作は温度特性、電磁シールド、機械的振動の排除その他多くの課題を考慮にいれなければならず、まさにノウ・ハウの塊です。 

余談ながら最近は技術も分業となり、全体設計、ブロック設計、部品の設計、制作、組み立て、配線、機械加工等全てを理解することが難しくなってきましした。この点からもこのプリでのLPの再生を聴きながら、上田氏の力量に関心するところ多です。

このプリと同じ回路のプリ(使用部品等異なる処があります)が上田氏によりMJ無線と実験 2011年6月号 (5月10日発売)に発表されておりますので、ご参考いただければ幸いです。