2011年6月6日月曜日

LCRフォノイコライザ採用プリについて:イコライザについて - 3





LP レコードの溝を刻む時、入力音源に比べては低域では小さな信号に、高域では大きな信号に変換してから溝を刻んであります- 上から二枚の図。
この理由は;
1.そのまま記録すると低域の溝幅が大きくなりレコード盤に記録できる時間が短くなってしまう。
2.高域では溝幅が小さくなりSN比が取れなくなる等の問題が発生する。
3.再生能力の高いマグネチック型のピックアップ(MM,MC型等) では再生周波数が高くなるほど針の動きによって得られる磁石とコイルの相対速度が速くなるため出力電力が高くなる。この特性を生かし低域から高域迄の再生時の針の振動振幅の差を少なくし、トレーシング能力を高める。
等によります。

このためLPレコードをマグネチック型カートリッジで再生する際はレコードの溝を刻む際とは逆に低域の信号成分を大きく、高域の信号成分を小さく再生するためのフォノ・イコライザ回路が必要になります- 上から三枚目の図。

この録音、再生カーブはLPレコードの初期には色々なタイプが存在していましたが、 RIAAカーブと呼ばれるRecording Industry Association of Americaにより提案された規格が標準となっています。
アナログ回路によるフォノ・イコライザ回路にはNF型、CR型、LCR型,その他(各方式の組み合わせ等)が有りますが、今回紹介させていただくアンプではLCR型回路を採用しています。

LCR型イコライザは一番下の図のとおり、前段増幅器と後段増幅器、二つの増幅器の間のL,C,Rで構成されたRIAAイコライザ素子で構成されます。 

L,C,Rを使ったイコライザ素子では周波数に関係なく、前段増幅器に対して定インピーダンス負荷とすることができるため前段増幅器にとっては大変良い条件となります。また後段のアンプに対しても低い値の定インピーダンス入力はノイズ面からも有利になります。

ちなみにNF型では高域負荷が重くなり、CR型では前段増幅器の出力インピーダンスや後段増幅器の入力抵抗がイコライザ特性に影響します。

こう書いてきますと、それなら何故LCR型イコライザが広く使われないのかと疑問が出てきますが、部品コスト(商品化には大きな問題です)を別としても;

A.低いノイズレベルの前段増幅器と後段増幅器が必要

B.定インピーダンスRIAA素子は、インピーダンスを高くしょうとすると、Lの値が大きくなり形状が大きくなったり、自己共振周波数が低くなったりして実用にならず、又、小さくするとインピーダンスが小さくなるため、Cの値が大きくなり、前段アンプの負荷が低くなり駆動が困難になる。 

C.インダクタンス素子を使用するため電磁シールドが必要

D.L素子の入手が困難

等があるからです。

今回のアンプでは上記の課題に対して、以下の対応をしています。

a.低いノイズレベルの前段増幅器と後段増幅器としてナショナルセミコンダクタのオペアンプIC、LME49860を採用

b.このオペアンプは直接ローインピーダンス600オーム負荷を駆動できます。

c.一番上の写真がアンプに実装されたイコライザ・ブロックです。ご覧いただけるようにアルミケースの中にイコライザー部全ての機能を組み込み、シールドに万全を期しています。

d.LCRイコライザーでは、L部分を流れる信号出力を主に使用するためLが大変重要となります。緑色の円筒がL素子です。このL素子は上田氏の手作りによるものです。プリのケースの高さが88ミリですので、L素子のパッケージの大きさがおわかりいただけるかと思います(L素子が二つ入っています)。L素子の設計、制作は温度特性、電磁シールド、機械的振動の排除その他多くの課題を考慮にいれなければならず、まさにノウ・ハウの塊です。 

余談ながら最近は技術も分業となり、全体設計、ブロック設計、部品の設計、制作、組み立て、配線、機械加工等全てを理解することが難しくなってきましした。この点からもこのプリでのLPの再生を聴きながら、上田氏の力量に関心するところ多です。

このプリと同じ回路のプリ(使用部品等異なる処があります)が上田氏によりMJ無線と実験 2011年6月号 (5月10日発売)に発表されておりますので、ご参考いただければ幸いです。

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