2011年7月14日木曜日

LCRフォノイコライザ採用プリについて:ラインアンプの特性 - 8

長年にわたり、色々なアンプを聴いてきましたが、私個人の印象として、特性の良い負帰還(NFB)を使用しないアンプは音楽が生き生きと聴こえます - しかしながら、特性が良く安定したNFBを使用しないアンプを設計・制作するのは大変難しいことです。 一方NFBを多用したアンプは特性が良いのにもかかわらず、再生音の生々しさ、迫力に欠け、なんとなくつまらない音になる傾向が有る様です。

今回紹介させていただいているプリのラインアンプは二段直結の真空管(6DJ8)カソードフォロワ―構成のシンプルな回路でNFBは使用しておりませんが以下の図で示すとおり周波数特性は20Hz~50KHz迄フラットと大変優秀です。


100Hz,1KHz,10KHにおける歪率もご覧の通り小数点以下3桁と極めて良好です。また、出力電圧の高い範囲まで良好な歪率をしめしています。





















シンプルな真空管回路でこのような素晴らしい特性を得るために以下の配慮等がなされています。

1. 1. ユニークな回路設計
ラインアンプの設計にあたっては、三極管を定電流負荷で動作させると定抵抗負荷で動作させた場合に比較し、グリッド電圧の変化に対するプレート電圧の変化の直線性が良くなることに着目し、ブートストラップ回路を活用により、初段管の電圧増幅動作を定電流に近い動作となるように工夫しています。
このラインアンプに採用された回路では電圧増幅段の負荷抵抗の両端にかかる電圧がほぼ同じとなるため、負荷抵抗にはほとんど信号が流れず、負荷抵抗が大幅に増大したのと同等となり、定電流に近い動作が図れることとなります。これにより測定結果でご覧いただけるとおりの低歪率と、最大出力電圧をNFB無しで達成しています。

ちなみに電圧増幅段のプレート電流の定電流化は半導体を使用した回路でも作成可能ですが複雑なものとなり、回路構成の上でも問題があります。

上田氏の全ての素子(真空管、トランジスタ、FET等)の特徴を理解したうえでのフラットアンプでの真空管の採用は、LCRイコライザにおけるオペアンプの採用とともに、最適な素子を使用し、シンプルで最適な回路を構成するものであり、アマチアには説明されてなるほどとは思えるものの、我々が発想できる範囲をはるかに超えたものと感心しています。

余談ですが、真空管でLCRイコライザを作るとインピーダンスの整合等の面から複雑で大げさなものとなります。

2. 2. 部品の選定
NFB無しの回路においては使用する素子の特性が全体の特性に大きく影響するため、特に真空管の増幅度やノイズ特性を測定、選別して採用しています。
ライントランスは特性も、音質も大きく左右しますのでデータと試聴の両面での選択が必要となります。

3. 3. 電源のACラインの分離
ハム及び外部ノイズの低減に十分効果があったと思われます。

4. 4. 実装
優秀な回路もアースの引きまわし、ノイズ対策等を考慮した実装がされなくては良い特性を得られません。次回は配線の様子等を紹介させていただく予定です。

このプリの回路については、MJ 無線と実験 2011年 6月号に詳細が紹介されておりますので、ご覧いただければ幸いです。

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